あまり理解されていない事ですが、設計という仕事はいつも手探りです。最初から最終形の提案というのはまず有りません。殆どが紆余曲折を経て最終形に至ります。
何案も何案も考えて、最初の頃とは全く違う案に落ち着く事もあれば、回り回って最初の案に近いものに落ち着く事もあります。
なぜこんなにも、いつも手探りになってしまうのか?建築基準法の解釈にはある程度の幅がある為、行政との調整で変更になる事もあるし、コスト面での変更も有りますが、一番大きいのはコミュニケーションの難しさに起因していると思います。
まず、最初の提案をする為のヒアリング段階では、お施主さんも建築家もほぼ初対面に近い状態。この状態で要望を伝えたり聞き取ったりする作業を行うわけですが、なんせ初対面。思っている事を上手く伝えられなかったり、聞き取れ無かったりします。 例えば、最も難しいのが好みの問題。「こういう感じが好きです」と写真をお持ち頂いたりする事もあるのですが、その写真に写っている被写体の「どこがどう好きなのか」を的確に説明できる方はなかなかおらえません。だから、それを聞き出そうと努力するのですが、100%聞き取れるかというと、そうでもない。結構難しい。 収納量の感覚なども良い例です。荷物が多いといわれる方が、建築家の感覚では以外と少なかったり、またその逆も。これはお施主さんと建築家の感覚の違いというよりは、各々の生活背景の違いによるものだと思いますが...。
ご自分達の要望を箇条書きにしてまとめて頂く事をお勧めしていますが、それでも上手くニュアンスが伝わらなかったりする事も多々あります。だから、一度絵にしてみて確認する。要望が上手く伝えられて、上手く聞き取れていれば良いですが、そうでなければ修正や変更をする。 こういう事を繰り返して、徐々に最終形にアジャストしていくのが設計という仕事の流れになります。だから、最初からストライクゾーンど真ん中の提案というのはなかなか無い。勿論、できるだけ早い段階でストライクゾーンに近い提案をするよう試行錯誤するのですが...。 コミュニケーションを繰り返して、設計は纏まっていきます。人と人がコミュニケーションを繰り返す事で、やっと相手の事が理解できのに良く似ていますね。