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執筆者の写真S.Ninomiya

建築コストの話 その5


シリーズで書いている「建築コストの話」、今回はその5回目。今回は最も質問が多く、また分かりにくいと思われているコスト確定までの流れについて、出来る限り分かり易く書いてみようと思います。 建築に関しての相談を受ける際、殆どの方が疑問に思われているのが「いったい幾らで建つの?」という事。実は最初の段階では僕たちにも分かりません。 そもそも、建築コストは何によって左右されるものでしょうか?結論から言うと建築コストは「どのような建物を建てるのかによって左右される」という事になります。勿論、建築コストは物価に左右されるので、建設時期の経済的な世情にも左右されるし、人件費なども含んだ地域性などにもよって左右されるのですが、やはりなんといっても「建築したい建物の内容」により大きく左右されます。 内容とは「どのような規模か?」「どのような構造か?」「どのような仕上げか?」「どのような設備か?」「地盤の状態は?」「外構の範囲は?等々、その骨格を形成する為に必要な情報は実に多岐に渡り、これらを暫定的にでもあれ確定してしなければ具体的な建築コストは見えてきません。 これらを確定させる作業が「基本設計」と「実施設計」にあたります。「実施設計」で描かれた図面を「設計図書」と言いうます。そして、実際に施工する立場となる施工者に対して、この「設計図書」を基に見積もりを行います。 余談ですが、良く勘違いされている事の一つに設計者が建築コストを決めている...という誤解があります。建築コストは実際に施工を行う施工者が見積りし決定します。なぜなら、設計者は工事をしません。工事を行うのは施工者になります。だから、その施工を行う当の本人がコストを提示する事になります。考えてみれば直ぐに分かる事ですね。だから、設計者が「〇〇〇円で建ちますよ」と言っても、それは設計者側の勝手な憶測に過ぎません。 さて、見積もりの続きです。僕たちの事務所の場合、お施主様から特にご希望が無い限り競争入札で施工者を選定しています。前述の「設計図書」を基に、同じ土俵で幾らで建設可能かを競ってもらうわけです。また、競争入札に参加して頂く工務店さんは、出来るだけお施主さんからも1社以上のご推薦を頂き、入札が公平に行われている事を客観的にチェックできるようにしています。このように競争原理を働かせる事で、出来るだけコストを圧縮しようという狙いがあります。 同じ「設計図書」で見積もりを行っても、施工者によってコストにバラつきがあり、なかなか複数社が同じ金額になるという事はありません。ひどい場合は2~3割も見積もりに開きが出る場合もあります。設計と施工が同一の場合、このような競争入札ではなく「言い値」となるので、結果的に割高になるのは目に見えていますね。 このような過程を経て初めて建設コストが見えてきます。なので、何も計画をしていない段階から「いったい幾らで建つの?」という疑問に対しては、なかなか歯切れの良い回答が出来ないわけです。もし、何も確定していない段階で明確なコストが提示されるのであれば、想定外の要望が無い限りカバー出来るだけの含みを持った多めのコストを提示しているか、また逆に、後でなんだかんだとコストの増加を言い出すつもりの、どちらかだと思います。 ただ、「幾らで建つのか全く分かりません」では話が進まないので、コストの確定までには前述のような流れが必要である事をご理解して頂いたうえで、過去の案件を参考にしながら大凡の目安で説明をさせて頂いたり、後で大きくコストが狂わないように、概算見積もりを行うなどして軌道修正する過程を経ながら、出来るだけ合理的に想定内のコストに収める努力をしています。

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