このBLOGは2014年9月1日に掲載した内容に一部加筆・修正した記事です。
ご存知の方も多いと思いますが、環境犯罪学上の理論で「割れ窓理論」という理論があります。考案者はアメリカの犯罪学者ジョージ・ケリング。
簡単に説明すると「建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」という理論です。
もう少し詳しく説明すると、下記のようになります(以下Wikipediaより引用)
治安が悪化するまでには次のような経過をたどる。 建物の窓が壊れているのを放置すると、それが「誰も当該地域に対し関心を払っていない」というサインとなり、犯罪を起こしやすい環境を作り出す。
ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる。
住民のモラルが低下して、地域の振興、安全確保に協力しなくなる。それがさらに環境を悪化させる。
凶悪犯罪を含めた犯罪が多発するようになる。
したがって、治安を回復させるには、 ・一見無害であったり、軽微な秩序違反行為でも取り締まる(ごみはきちんと分類して捨てるなど)。 ・警察職員による徒歩パトロールや交通違反の取り締まりを強化する。 ・地域社会は警察職員に協力し、秩序の維持にに努力する。 などを行えばよい。 (引用ここまで) この「割れ窓理論」を基にした治安改善の実例としては、NYなどが有名ですね。以前は犯罪が絶えなかったハーレムを代表とする地区も、この「割れ窓理論」を根拠とした当時のジュリアーノ市長の尽力により、現在では治安を回復し安全な町になっています。
ところで、先日お引渡しを終えた「浜寺公園の家」のお施主さんからこんな事を言われました。 「以前は塀の所に良くゴミを捨てられて困っていたのだけど、(建物と一緒に)塀を建てかえて綺麗になってからゴミを捨てられる事がなくなった」と。 これって、まさに「割れ窓理論」の証明そのものだと思いました。以前の塀も決して壊れていたわけでは無いのですが、老築化した木製の塀だったのでひなびた印象は有りました。それが転じてゴミのポイ捨てを容易に誘発する原因となっていたのだと思います。
因みに、「浜寺公園の家」が建つ地域は特に治安が悪いわけでは無いのですが、「割れ窓理論」から推測すると、ゴミのポイ捨てを許容していると何れは治安の悪化に繋がったのかもしれません。
「浜寺公園の家」外観。 このような事の積み重ねは、ただ単に街の美化や治安に貢献するだけではありません。美しい街並みの維持や治安の良さはその地域の客観的な評価に繋がり、誰もが住みたい街となり、転じて地価の評価も高くなり資産価値を高めてくれる要因ともなります。 そういえば、僕たちが設計し2005年に竣工した「鶴橋の家/狭小住宅」の周辺も、この建築が建った後、建て替えられる建物が続々と「鶴橋の家/狭小住宅」と同じような外観のデザインとなり、それまでの混沌とした街並みが一変した事がありました。一つの建築が、その街の方向性を変える事も出来るのだと実感した前例でした。
「鶴橋の家/狭小住宅」外観。
僕たちの設計する建築が、ゴミのポイ捨てを躊躇させ、転じてその街の価値に貢献できるのであれば、とても素晴らしい事だと思います。あらためて、建築は社会と繋がっているのだと思うのです。