先日、知人の親父バンドの演奏を聴きに行きました。場所は美薗ビルのユニバース。大阪の方はご存知の方も多いと思いますが、この美薗ビル、キャバレー・スナック・ダンスホール・宴会場・サウナを備えた、所謂レジャービルの代表的な建築物で、竣工時の1956年からバブル期までは、大阪ミナミ、千日前を代表する存在でした。バブル後は低迷し、現在は一部業態を変えて、大阪ミナミのサブカルチャーを生み出す存在となりつつあります。
で、この美薗ビルが凄い。今から58年前に建設されたビルとは思えないくらい、建築的に興味をそそる要素が満載。薄いスラブがらせん状に上昇する事で構成されたアプローチや、スナックやバーの入居するフロアの中廊下は緩いスロープで繋がっていて、オランダの建築家レム・コールハースの30年先を行っている構成。圧巻は、現在は借しホールとなっている、もともとキャバレーだった「ユニバース」の大空間。 「ユニバース」は美薗ビルの半地下に位置しているのですが、上階の盛り沢山のヴォリュームを背負っているとは思えない程の「無柱」の大空間で、訪れる者を圧倒するに十分。アプローチの仕方も秀逸で、1階のエントランスからゆるくカーブした幅広の階段を降りていくと、淫靡で煌びやかな大空間が目の前に突然広がるという構成。思わず圧倒される。建築の力を無意識の内に感じてしまう空間になっている。 特に目を引くのは天井で、一見、所謂ワッフルスラブになっている…かのように見えます。実際、以前にこの空間を二度ほど訪れていますが、てっきりワッフルスラブだと思っていたし、「こんな昔にワッフルスラブを採用するなんて凄い」とも思っていたのですが、今回マジマジと天井を見上げてみると、なんとスラブとワッフル状の格子が接していないではないですか…。しかも、スラブと格子の間のスペースには設備配管のようなものが見え隠れしている。という事は、この格子はただの化粧であって構造体ではなく、つまり、ワッフルスラブでは無い…ワッフルスラブでなかったのは少し残念でしたが、ワッフルスラブでも無いのにこんな大空間を作れるなんて、それはそれで凄いなぁと思いました。 ところでこの美薗ビル、Wikipediaによると設計は初代オーナーの志井銀次郎となっています。こんなに凄い建築なのに、建築の教科書はもとより、建築雑誌にも全く紹介されていない。建築家業界からは黙殺された存在。多分、アカデミックさが無いとの判断で無視しているのだと思うのですが、こんな凄い建築を無視するなんて、つくづく建築家業界って〇▲◆だなぁ~と思うのでした。